ユニファイドコマースとは?
OMO・オムニチャネルとの違いと導入事例を紹介!

ユニファイドコマースとは

複数チャネルで顧客と接点を持つことが当たり前になった今、「ECと店舗が別運用で在庫や顧客情報もバラバラ」「チャネルごとに施策が完結してしまい横断的な打ち手が打てない」という課題を抱える企業は少なくありません。チャネルを増やすだけではCXは向上せず、かえって分断されて機会損失を生むケースもあります。そこで注目を集めているのが、オンライン・オフラインの区別なく顧客体験とデータを一元化する「ユニファイドコマース」です。

この記事では、実店舗とECの統合に課題を抱える事業者の方に向けて、ユニファイドコマースの考え方や必要性、実現するステップを解説します。ぜひお役立てください。

1.ユニファイドコマースとは

IT分野の調査・助言を行う国際的なリサーチ企業であるガートナー(Gartner, Inc.)によれば、ユニファイドコマースとは「タッチポイントに関係なく、小売消費者に閲覧、取引、購入、消費の継続的な体験を提供する現代の支配的なビジネス戦略」と定義されています。言い換えれば、電子商取引と実店舗のチャネルを一貫して連携させ、顧客に統一された購買体験を提供する仕組みを指します。氏名・住所といった基本情報だけでなく、行動履歴・検索履歴・購入履歴・ポイント情報・アプリ利用状況などをリアルタイムに連携します。

その上で、実店舗ではスタッフが過去の購買履歴を把握した上で接客する、ECではおすすめ商品を表示するといった「One to One」の体験を実現できます。オンラインとオフラインの垣根をなくし、認知から商品購入・アフターサポートまでを一貫させることで、顧客体験の価値を高める点が特徴です。

1-1.ユニファイドコマースの重要性が増している理由

ユニファイドコマースが注目される背景には、消費者行動や情報環境の変化があります。特に、以下の3点が重要な理由として挙げられます。

より個人に向けたマーケティングが必要になった

価値観の多様化により、マスマーケティングでは効率的に成果を出しにくくなっているため、One to Oneの最適化が求められています。ユニファイドコマースなら統合されたデータに基づき、チャネル横断でパーソナライズ訴求が可能になります。

カスタマージャーニーが複雑化している

スマートフォンの普及により、顧客は必ずしも「広告→店舗購入」という単一ルートを取るとは限りません。「SNSで発見→ECで比較→実店舗で確認→後日ECで購入」など、行動経路は複雑に分岐する傾向にあります。統合された顧客データを軸に、どの接点でも一貫した体験提供ができるユニファイドコマースでは、複雑な経路にも対応できます。

顧客が購買行動の際にオンラインとオフラインの双方を使うようになっている

現代の顧客は状況や目的に応じて実店舗とECを自由に使い分けます。そのため、企業側もチャネルごとに分断して運用するのではなく、行動情報・在庫・接客情報を統合管理し、どの入り口からでも同水準の顧客体験を提供する必要があります。

パーソナライズの必要性について以下で解説しています。ぜひあわせてご覧ください。

2.ユニファイドコマースとOMO・O2O・オムニチャネルの違い

ユニファイドコマースと似た概念としてOMO・O2O・オムニチャネルがありますが、それぞれ目的や実現範囲に違いがあります。ここでは、意味の重なりを整理しながら、ユニファイドコマースとの違いを分かりやすく解説します。

2-1.ユニファイドコマースとOMOの違い

ユニファイドコマースとOMO(Online Merges with Offline)は、いずれも「オンラインとオフラインをまたいだ顧客体験を作る」という点では同じ方向性にある概念です。その上で、一般的にフォーカスされやすいポイントにやや違いがあります。

ユニファイドコマースは、複数チャネルから得た顧客データを統合し、その分析を基に一人ひとりに最適化された購入体験を提供することに重きを置く傾向があります。

一方、OMOは、顧客がチャネルの違いを意識せずに買い物や問い合わせができる環境を整えることに主眼が置かれやすく、利便性の向上や購入機会の最大化が狙いとされます。たとえば、「店舗で試した商品をスマホで購入する」といった連携が代表的です。

OMOの概要やメリット・デメリット、OMOの導入成功事例などは以下で解説しています。ぜひあわせてご覧ください。

2-2.ユニファイドコマースとO2Oの違い

ユニファイドコマースとO2O(Online to Offline)はどちらもオンラインとオフラインの接点を扱いますが、狙いとアプローチが異なります。

ユニファイドコマースは、オンライン・オフライン双方のデータを統合し、顧客単位で最適な体験を設計することが目的です。チャネルは誘導のための手段ではなく「統合された接点」として扱うため、顧客満足やリピートの最大化を目指す点で、O2Oより包括的かつ顧客中心のアプローチと言えます。

対してO2Oは、オンラインを入口として実店舗へ送客することに特化したマーケティング施策です。たとえば、WebやSNSで店頭で使えるクーポンを配布して来店を促すなど、「オンライン→オフライン」の一方向の誘導を前提としています。

O2Oについて以下で解説しています。ぜひあわせてご覧ください。

2-3.ユニファイドコマースとオムニチャネルの違い

ユニファイドコマースとオムニチャネルはどちらも複数チャネルを前提にしていますが、優先している視点が違います。

ユニファイドコマースは、チャネル統合の上に「データ統合」を重ね、各接点から得た顧客データをリアルタイムに結び合わせ、個々の顧客に合わせた最適な提案や接客につなげることに重きを置きます。

一方、オムニチャネルは実店舗・EC・アプリなど複数の販売チャネルを統合し、「どこからでも同じように買える」状態を作ることを重視した考え方です。たとえば、ECで注文した商品を最寄り店舗で受け取れるなど、チャネルをまたいだ利便性の向上にフォーカスしています。

オムニチャネルについて以下で解説しています。ぜひあわせてご覧ください。

3.ユニファイドコマースで実現可能なこと

ユニファイドコマースを導入すると、チャネル横断で取得した顧客データを活用し、最適な体験提供や業務の一元化など、従来では難しかった高度な取り組みが可能になります。ここからは、ユニファイドコマースで何を実現できるのか具体的に説明します。

3-1.セグメント設計の自動化

ECでの閲覧履歴や購入履歴、店舗での来店頻度やPOS情報など、あらゆる接点のデータを一元化することで、そのデータに基づいて顧客を自動的にグループ化(セグメント化)できます。本来であれば複数ツールを行き来しながら分析・設計していた工程を削減できるため、ターゲット設計のスピードを早めて精度を高められます。

さらに、BIやCRMを選定する際に、ユニファイドコマースとの親和性が高い統合機能や細分化機能を備えたものを導入すれば、セグメント単位の施策管理も一貫して実行でき、マーケティング運用全体の効率化に寄与します。

3-2.データに基づいたOne to Oneマーケティングの実現

ユニファイドコマースでは、あらゆる接点から得たデータを統合できます。「推測に基づく広告配信」ではなく、「実際の行動データに基づく施策」を打てるため、精度の高いOne to Oneマーケティングが可能です。

たとえば、顧客ごとに過去の購入傾向と閲覧履歴を基に適切なタイミングで商品をレコメンドしたり、店舗来店時に適した提案やクーポンを提示したりするなど、個人に最適化した施策を自動化できます。統合データをBIやCRMに集約して活用することで、顧客満足度だけでなく、売上アップやリピート率向上も期待できます。

3-3.データの統合管理による全体最適化

ユニファイドコマースを導入することで、実店舗とECに分散していた顧客データ・在庫情報・行動ログなどを1つの基盤で統合管理できます。オムニチャネル・クロスチャネル施策の企画から実行までを効率化できるだけでなく、意思決定の精度も高まります。

たとえば、ECでカートに入れたものの購入しなかった顧客に対して「近隣店舗での試着案内」を配信するなど、チャネルをまたいだ施策もスムーズに実行できます。また、会員データやポイントプログラムの統合、在庫の一元化、問い合わせ履歴の紐づけなどを進めれば、どの接点からでも同じ顧客理解に基づいて対応できます。

3-4.リアルタイムの情報発信

在庫表示や価格の誤差は、ユーザーの離脱やブランド信頼の毀損につながる重大な要因です。ユニファイドコマースでは、実店舗・EC・倉庫・外部モールなど、複数チャネルに点在していた在庫数や価格情報を1つの基盤で管理するため、最新状況をリアルタイムに反映できます。

「表示上は在庫ありだが実際は欠品」というミスコミュニケーションを防止でき、必要に応じて在庫移動や再発注の判断もスピーディーに行えます。最新の在庫・価格に基づいて顧客へ即時に情報発信できるため、購入機会を逃さず、安心感のある買い物体験を提供することが可能です。

3-5.スタッフ業務の効率化

ユニファイドコマースを導入すれば、実店舗とECで分断されがちな在庫・顧客情報を一元管理でき、業務効率が向上します。従来の方法ではチャネルごとに在庫管理を個別に行うため、入力作業の重複や齟齬が生じやすく、欠品や過剰在庫を招くなど非効率な状態に陥ることもあります。

その点、ユニファイドコマースでは基盤そのものを統合できるため、店舗・EC間で高レベルの連携が可能になり、人手不足の現場でもリソースを無駄なく使えます。在庫確認作業に追われることなくスタッフが顧客対応に集中できれば、結果として生産性と顧客体験の双方を同時に高められるでしょう。

4.ユニファイドコマースの実現に必要なもの

ユニファイドコマースを実現するには、単にチャネルを増やすだけではなく、あらゆる顧客接点をつなぐ仕組みと、統合したデータを活用できる体制が不可欠です。ここからは、ユニファイドコマースの実現に必要な要素を説明します。

4-1.オムニチャネルの実装

ユニファイドコマースを成立させるための前提として、まずはオムニチャネル化による顧客接点の統合が必要です。実店舗・EC・アプリ・コールセンター・ポイント利用など、顧客が接触するあらゆるチャネルを横断的に連携させ、データを有効活用できる状態を整えることが重要です。

特に、ECと店舗の会員データやロイヤルティプログラムの統合、在庫情報の一元管理は欠かせません。一元管理により、チャネルをまたいでも同一顧客として識別でき、横断的なデータ収集が可能となります。

4-2.データの蓄積と分析が可能なシステム構築

ユニファイドコマースを実現するには、データを収集するだけでなく、「蓄積→統合→分析→施策化」の一連のプロセスを支える基盤も必須です。その中心となるのが、顧客関係を管理するCRM(Customer Relationship Management)や、行動情報・購買情報・アクセス履歴など膨大な顧客データをID単位で統合するCDP(Customer Data Platform)です。さらに、BIと連携することで分析結果を可視化し、最適なタイミング・チャネル・内容で次のアクションに反映することが可能になります。

CRMやCDPについて以下で解説しています。ぜひあわせてご覧ください。

4-3.ゼロパーティデータの収集

ユニファイドコマースにおいて、高度なパーソナライズを実現する役割を担うのがゼロパーティデータです。ゼロパーティデータとは、アンケート・診断・会員登録時の回答など、顧客が自発的に企業へ提供する情報のことで、趣味嗜好・購入意思・生活状況など「どう認識されたいか」という顧客の意図も含まれる点が特徴です。

外部購入のサードパーティデータや自社で観測した情報に基づくファーストパーティデータとは異なり、正確性・信頼性が高く、他社に複製されないデータ資産として競争優位も生まれます。このデータを活用することで「SUVを検討している顧客だけに試乗案内を配信」「肌質回答に応じてスキンケアを提案」など、効果的なOne to Oneの顧客体験設計が可能になります。

4-4.EC部門と店舗部門の協力体制

ユニファイドコマースは、社内の体制が伴っていなければ機能しません。実店舗とECの在庫・会員・ポイントを統合しても、現場の評価軸が分断されたままでは部門同士で売上を奪い合い、購入導線の最適化よりも部門利益を優先する構造が生まれる恐れがあります。

そのため、「店頭で案内→ECで購入」という購買でも店舗スタッフに評価が入るような仕組みを導入し、どのチャネルで顧客が購入しても組織全体の成果として認められる環境を整えましょう。

5.ユニファイドコマース・OMOの成功事例

ユニファイドコマースは、小売・飲食・サービス業など、さまざまな業界で導入が進んでいます。ここでは、実際に成果を上げている企業の取り組みを紹介します。

5-1.株式会社AOKI

株式会社AOKIでは、「Life&Work StyleのAOKIへの進化」を掲げ、実店舗とECを分断せず同一線上の売り場として扱う独自のOMO戦略を推進しています。ウェブオーダー・店舗受取・取り置き予約など、オンラインとオフラインを連動させる「Easy Web Shop」を軸に、在庫統合と顧客統合の両面からCX向上に取り組んでいる点が特徴です。ECでの購入導線だけでなく、店舗へ送客する流れまで設計し、AOKIの強みである接客力をオンラインにも拡張しています。

さらに、店舗在庫販売機能によって「オンライン上で売り切れがほぼない状態」を実現し、欠品の機会損失回避と在庫の効率活用にも成功しています。こうしたOMO基盤は、SCSKグループが提供するF.ACE上で構築し、導入後は顧客・店舗スタッフ双方から高い評価を得ています。

株式会社AOKI様の事例について以下で解説しています。ぜひあわせてご覧ください。

AOKIのEC推進キーマンが語る「店舗とECの長所を最大化するOMO施策」

5-2.アークランズ株式会社

アークランズ株式会社では、ホームセンター市場が成熟する中で「顧客を起点としたビジネスへの変革」を掲げ、店舗とECを横断したオムニチャネル・OMO基盤の構築を推進しています。ビバホームとの合併後は、会員・ポイント・アプリ・Webが分断された状態だったため、まずはチャネル統合とデータ統合が必須と判断されました。

新ECサイト「ビバホーム公式オンラインショップ」のリニューアルでは、Salesforce B2C Commerce×F.ACEを中核に、商品・在庫情報の一元管理、サイト統合によるUX改善、OMO施策の基盤整備を進めました。その結果として、店舗にない商品のEC注文やEC注文品の店舗受取といった利便性を提供しつつ、One to Oneマーケティングを見据えたデータ統合の基盤が整備され、グループシナジーを生かした中長期的なCX強化へとつながっています。

アークランズ株式会社様の事例について以下で解説しています。ぜひあわせてご覧ください。

ビバホーム新ECサイトに学ぶ!アークランズが目指す『顧客を起点としたビジネスへの変革』とは

5-3.西日本旅客鉄道株式会社

西日本旅客鉄道株式会社では、「WESTER体験」を軸としたデジタル戦略の一環として、2024年4月に自社運営のECモール「WESTERモール」を開設しました。グループ共通のWESTER ID・ポイントと連動し、鉄道利用など日常で貯めたポイントをECでも活用できる設計とすることで、リアルとデジタルの接点を横断したエンゲージメント強化を目指しています。

さらに大阪・関西万博では、同仕組みを活用した来場者限定オンラインストアも展開。万博限定商品の自宅配送やエキナカ受取といったOMO型の購買体験を提供しました。ECフロントにはSalesforce B2C Commerce、バックエンドにはMiraklを採用し、SCSKが基盤連携・開発・伴走支援を担当しました。単なる販売チャネルの拡大にとどまらず、「リアル×デジタル×ポイント」を結節点として、LTV向上と地域経済循環の両立を実現した点が特徴です。

西日本旅客鉄道株式会社の事例について以下で解説しています。ぜひあわせてご覧ください。

「WESTER体験」を軸にしたJR西日本のデジタル戦略 ~グループシナジーを最大化する自社運営ECモールとは~

6.まとめ

ユニファイドコマースは、チャネルをつなぐこと自体が目的ではなく、統合されたデータに基づき、顧客一人ひとりに最適化された体験を提供する仕組みです。ユニファイドコマースを実現するには、まず顧客接点とデータの統合範囲を棚卸し、どこから統合を始めるのが効果的かを見極める必要があります。その上で、SFAやCRMなどの顧客情報基盤を導入し、データの統合・活用を進めましょう。

altcircle(オルトサークル)では、OMO/ECプラットフォームの提供を通じて、店舗とECを融合した柔軟で拡張性の高い基盤構築・運用を支援しています。また、データ分析・活用コンサルティングや、CRM・SFAの導入・活用支援を通じて、データドリブンな意思決定と顧客体験の高度化をトータルにサポートしています。具体的なサービス内容については以下で紹介しています。ぜひあわせてご覧ください。